高校を卒業したばかりの四月の終わり、オートバイで行った横浜港の埠頭で初めて東京湾を見ました。
春とはいえ生憎の曇り空の寒さに耐えながら着いた横浜港の埠頭の先端は、そこだけポッカリと晴れ間が広がって春の眩しい陽射しは暖かく、埠頭のコンクリートの白い輝きと真っ青な波の連なる煌きが忘れられませんでした。
それから随分経って、仕事帰りに寄った横浜港で其の埠頭を探しましたが、地図も見ずに潮の香りだけが頼りのアバウトさで、何度も迷いながら辿り着いた埠頭は名前も知らず、埠頭前の踏み切りのロケーションも定かではなくて、場所のトレースが出来ずに分からず仕舞いでした。
そして、とうとうアニメDVD「コクリコ坂」の映像特典に、あの埠頭を見たのです。
(「コクリコ坂」の舞台になったのは氷川丸の背景に見える丘陵の南側で、本牧山頂公園から本牧臨海公園の辺りかな)
それは「横浜港大桟橋」。
埠頭ではなくて桟橋でした。
知らずに行った十八才の頃は「メリケン波止場」と呼ばれていたようです。
最初に入ろうとした別の埠頭は「関係者以外はダメだ」と断られたりして、あの時は本牧埠頭が完成したばかりなのと、「みなとみらい辺り」や「大黒埠頭」は埋め立てたり改修したりで、やたらと工事中ばかりだったのを覚えています。
様変わりの情報を知り得た後、出張帰りに訪れた大桟橋は以前と全然違っていました。
造りは桟橋ではなくて公園みたいな岸壁です。
長さはそのままに幅を拡張された大桟橋は、愛称の「鯨の背中」のように緩やかに盛り上がって、まるで板張りの低い丘の様です。
歩き具合は全然違いますが、稜線のカーブや勾配などの見た目は海辺の砂丘みたいな感じですね。
内部の「鯨のお腹」にはショップ、レストラン、カフィ、イベントスペースなどが有って、これまでに多くの国際クルーズの巨大客船が接岸しています。
もう、あの頃のようにバイクや車を走らせて自由に先端まで行く事はできません。
板張りの大桟橋の先端から白いベイブリッジを見ていると、無計画に「行こう」と言ってタンデムさせた責任の達成感、風向きと感だけで走っていた不安からの解放感、そして、暖かい陽射しに照らされた安堵感、更に何処を通って来たのか分からない道を戻る億劫さで、せっかくカメラを持って来ていたのに写真を撮るのを忘れてしまい、悔しがったのを思い出します。
夕暮れの「鯨の背中」からは、キング、クィーン、ジャックの横浜三塔が見えて、ノスタルジーとロマンスを感じてしまいました。
次は春の晴れた日に大事な人と二人で、上書きするように歩きたいかも……。