途中から三本に分かれた幹の寄り添いと広がり具合が女性的に感じる樹高54mの杉の大木です。
樹齢は2300年で、幹周囲が8mと説明板に記されていました。
三つ幹なのは、もともと真っ直ぐな一本の幹だった大杉を伐採して帆柱用に高額で売ろうと算段していたところ、その翌朝に幹が三つに割れ分かれて売り物にならなくなっていたからだそうです。
この言い伝えは、たぶん謂れある場所の象徴的な事物は、大切にして粗末にするなという戒めなのでしょう。
三又(みつまた)の大杉は国道364号線を山中温泉の旅館街を抜けた平岩橋で左へ折れて大聖寺川を渡ると、突き当たりの菅谷(すがたに)の郷に鎮守する八幡神社の苔生した境内に、待ち人の訪れを願う艶めかしい貴婦人の立ち姿の如く見えて来ます。
国道364号線は菅谷へ折れずに山地を進んで県境の大内峠を越えると、永平寺や丸岡城へ至る古代や中世の物流や宗教交流に重要な街道でした。
応神天皇を祭神とする菅谷の八幡神社は、近くの栢野の大杉が植わる菅原神社と共に大聖寺へ至る街道口を管理する拠点で、この5000年前の縄文遺跡が在る菅谷の郷は、周囲の山々に巨石や岩壁が見られるように古代から守りに適した重要な地だったのだろうと考えます。
環境や地理的に菅谷八幡神社の地も神社を創建する以前は、陣屋や砦などの遺構が在ったのかも知れませんね。