遥乃陽 diary

日々のモノトニィとバラエティ

世の中は感動と憂いに満ちている。シックスセンスが欲しい!

いたいのいたいの、とんでゆけ  独りで間違った自由へ飛ぶ前に……

ライトノベル『いたいのいたいの、とんでゆけ/三秋縋』(出版 メディアワークス、初版発行:2014年11月22日、書籍サイズ:文庫)の紹介です。

 

「痛いの痛いの飛んでけー」、初めて聞いたのは中学生の時で、ぶつけたのが脛だったか、肘だったか、忘れてしまったけれど、声が出ないくらいの激痛にじっと蹲って耐える自分に気付いた女子が、傍に来て痛い患部を擦りながら言っていました。

それから、言い終わると患部を擦っていた手を広げて、掌に乗せた痛みを『ふぅ』と吹き掛けた息で空の彼方へ飛ばすような仕種をしてくれると、本当に痛みが半分に薄らいだ気がして、擦られていた掌の温かさに『こいつ、マジに手翳しでも出来るのか?』と思わず木目細かい肌の横顔を見てしまったです。

「どう? 痛くなくなったぁ?」

そして、見詰められているのに気付いた女子の、痛み具合を訊きながら向けられた笑顔に、感謝の言葉を添えて頷きました。

『なぜ、ぶつけた?』の自責と『どうして、ここで?』の対象物への怨みを女子は飛ばしてくれて、痛みが薄れた分だけ、スキンシップされた女子の匂いと愛らしさにドキドキしていたのを覚えています。

それ以来、いろいろと痛い場面で良く使っている御呪いの言霊ですね。

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ヒロインの能力はパーソナルリアリティや固有結界の類なら素敵だと思うのですが、その『無かった事に』は自分だけの現実や自分だけの世界でないみたいかな。

 

風も、匂いも、色も、形や感触も、声と音も、味も、五感全てがリアルに感じて、眼が覚めても身体中に記憶されている夢をよく見ます。

八時間以上も寝ていたのにリアルな夢は五分たらずの出来事だったとか、逆に数年にも及ぶ夢だったのに五分くらいしか寝ていなかったとか、そういうのも、その時のマインドテンションの違いからなのか見る事が有ります。

夢の中の出来事は普通に現実的ですが、実際には知らなくて夢で初めてという場所や相手が多いです。

リアルな夢の多くは自分主体とはっきり分りますが、そうではない誰視点なのか分らない場合も有り、いずれも時間を経過したり、同じ繰り返しだったり、過去だったりする続きも見たりして、予知や御告げになったりしてますね。

『無かった事に』を繰り返す世界は、彼女の嬉しさを閉じ込めた固有の閉鎖空間で、『エンドレスエイト』や『ビューティフル・ドリーマー』のように閉鎖空間内の誰かが、気付いたり、目が覚めたりすると、夢みたく霧散するのに似ているかもです。

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ストーリーは、どのシチュエーションも残酷で汚くて怠惰です。

それでも、暴力的に酷く蔑すまれる辛い日々を、繰り返す嘘とたった一つの嬉しさが、絶望の上乗せだらけでも生きる気力を失わせずに彼女をアベンジャーとさせたのは素晴らしいです。

現実に絶望して全てから逃げてしまおうと心底決めてしまってからは、命の尊さや生きる意義を説いても再び生に戻すのは、非常に難しいです。

でも、認めた呪いや悲しみや謝りの文を脱いで傍に揃えた靴へ置く前に、高く危険な場所の縁に立つ前に、絶望に意欲と気力を無くして生きる世界から逃げる前に、ふうっと魂が抜け出たくなる前に、そして、独りで間違った自由へ飛ぶ前に、たった一つの嬉しい想いを信じて生き抜いて欲しいと考えます。

そして、其処へ至ったのが理不尽な誰かや誰か達の所為だったなら、いつか必ず、彼女のように復讐・報復して遣って下さい。

何年も、何十年も経って無警戒にいる背後から『リリィ・シュシュのすべて』のラストのようにケジメをつけさせたり、その幸せそうな首や腰に抱き付いて力いっぱい飛んで遣りましょう。

決して、無抵抗に一人だけで逝かないで下さい。

人生を捨る堅い覚悟に至っていたのなら、そうできると思いますし、そうして遣りたいです。

 

拳で眼の周りが赤痣や青痣になったり、口の中を切ったり、鼻頭の軟骨が折れて曲がったりするくらい殴られた事は有りますか?

鳩尾を深く殴られたり、男なら鋭いキン蹴りを喰らって、暫く蹲るくほど悶絶した事は有りますか?

身体の一部を切ったり、削れたり、潰したりして、自分の骨や、出ている真っ赤な中身や、激しく鬱血した皮膚を見た事は有りますか?

火が付いたタバコを叫ぶほど押し付けらて酷い火傷した事は有りますか?

他人へ酷い事をした事が有りますか?

事件や事故や自らの行為で、デッドラインを越えそうになった事は有りますか?

病気で死線を彷徨い生還した事は有りますか?

などなど、読みながら、そんな体験を思い出して改めて自分に問いかけていました。

 

『いたいのいたいの、とんでゆけ』『三日間の幸福』『スターティング・オーヴァー』、どれもタイムパラドックスの超常現象を絡ませた電波さが良い感じで好きですね。

前半から用水と遊園地へ遡るのが非情で、もう十回余りは読み直していますし、独り善がりと虚しさに身がつまされる前作二冊も相変わらず読み返しています。

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