「お昼、『金沢キッチン』に予約しておいた。そこでいいよね」
妻からランチに行くと言われて、『初耳の場所だなあ』と思いつつ、
「うん」
『彼女が選ぶ店ならハズレはないだろう』って、何も詮索せずに承諾の返事をした。
我が家のSUV車のサイドシートに乗り込み、妻の運転でリザーブした店へ向かう。
彼女はSUV車を金沢市の山側郊外に在る家から富山県との境の山地へと、金沢市街とは逆の方へ走らせて行く。
「あれ? こっちでいいの? 街の方で食べるんとちゃうの?」
彼女は俵高原で医王山へ向かう幹線道路から左へ折れて、医王ダム近くの和紙漉きの二俣集落の方へ車の進行方向を変えながら、
「さあ、どこだろう? こっちから行かないと入る坂道が分かんないんだ」
悪戯ぽく答える彼女の嬉しそうな笑顔を見ながら、『ここいらに、キッチンなんて付く洒落た店なんか在ったっけ?』と、記憶を漁りながら首を傾げてしまう。
僕は、明日に上海戻りを控えた週末のお昼時、時雨降る中を妻と戸室山の山の中へランチに行った。
確かに表道路から『金沢キッチン』へ至る坂道は、二俣町や角間地区などの反対方向から来ると見過ごしてしまうだろう。
いや、見えていても視界内の坂上に人家は見えないし、何気に林道で上るにつれて道は細くなり、挙句には行き止まりになって、バックで戻って来なければならないと、ずっと思っていた道だった。
坂の上り口には、『清水町』と深く刻まれた御影石の町名碑が立っている。
「こんな処に……」
と半信半疑に不思議がる僕を乗せて、ニコニコ顔の妻が運転するSUV車は戸室の山の神様に喰われてしまいそうな坂道へ入って行く。
タイトなヘアピンコーナーを幾つか曲がって進むと、山の斜面に10件ほどの人家が建つ『清水町』の集落に入り、それから集落を抜け、更に道を上り切った一番高い場所に、2015年の5月にオープンした『金沢キッチン』は在りました。
建屋の外観は山の農家。
週の後半、木曜、金曜、土曜のみが、カフェの営業日。
営業時間は木曜と金曜が、AM11:30~PM15:00
土曜のみ、AM9:00~AM11:30までのモーニングが有る、AM9:00~PM16:00の営業時間になります。
ランチは予約です。
週の前半は料理教室でカフェは営業していません。
提供される月替りのコースランチに使う野菜は、地元伝統の加賀野菜。
当然の如く、デザートは自家製。
使われる皿や器は洗練されていて、料理が際立つ。
デザートのカップは九谷焼で、同じモノが欲しい。
オープンテラスからは日本海が遠望できて、春や秋の夕陽が凄く綺麗に見えそうだ。
食べたランチは、見た目を裏切らない美味しさで、ゆったりとした時間が優しく過ぎて行き、嬉しいサプライズに心から妻へ感謝だ。
コースの御品書きに、ズラリと並ぶように料理の野菜は抵抗無く美味で、食べながら聞いた妻が言う『オーナーは野菜ソムリエ』を納得する。
それにグラスに注がれた水も、戸室石の岩盤で浄化された井戸水なのか、サラサラとスッキリした後味で、とても美味しい。
月替りのコースランチは、年5回の一時帰国の折に食べたいと思うけれど、食べに行く時間が有るかな?
食べれるといいな。
次の帰国は春節(旧正月)で、真冬だ。
『金沢キッチン』は雪深い冬場も営業している。
キラキラする新雪の結晶をギシギシ踏んでのモーニングもいいかも。
平日に行動できる積極的で明るいリタイアされた方には、良い隠れ家になるだろうな。
スリッパに履き替えて入る一段上がった食事場所の板張りフロアは、玄関から通る三和土に、以前は広い土間だったと思う。
壁の梁や柱が太い。
天井は二階の床板の裏が晒しで、懐かしい感じがする。
オーナーは、ジュニア野菜ソムリエ(ジュニアマイスター)の資格を持つ、キュートなマダム丸山。
キッチンで調理をするムッシュー丸山もカッコイイ。
『金沢キッチン』へ来た道を更に進むと、戸室別所や戸室新保の集落を抜けて幹線道路へ出れますが、細い農道で対向車と擦れ違う場所は少なく、曲がりや分岐も多いので奨められません。
(脱輪したら水田に転落するかも)
清水町の集落を通って『金沢キッチン』へ来られたのなら、来た道を戻られた方が賢明でしょう。
冬場は積雪で、『金沢キッチン』より先は通れません。
『金沢キッチン』で売られていた大きなシイタケを買ってソテーにして食べたら、これも美味だった。
もっと買えば良かったと思った。
尚、店内の写真は許可を得て撮影しています。
PS:
『金沢キッチン』が在る戸室山は、金沢城の石垣や石焼き芋の石や岩盤浴に使われている安山岩の戸室石の産地なので、砕石場から貰って来た赤と青の戸室石を削り、切り込み積みの石垣のミニチュアを作って、マイナスイオンを玄関先で発生させようかと以前から考えています。