遥乃陽 diary

日々のモノトニィとバラエティ 『遥乃陽 diary』の他に『遥乃陽 blog 』と『遥乃陽 novels 』も有ります

世の中は感動と憂いに満ちている。シックスセンスが欲しい!

いちご同盟 15歳で心中したい想いとは……

アニメ『四月は君の嘘』を繰り返し観て、コミック全巻を何度も読み、『小説 四月は君の嘘 6人のエチュード』も読みました。

そして、『いちご同盟/三田誠広 1990年初版』を繰り返し読み続けています。

最初にアニメ『四月は君の嘘』に出会えたのは、とても嬉しく思います。

故に『いちご同盟』を読み終えて、得た感動に自分は幸せだと感じています。

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『四月は君の嘘』では、入院したヒロインへ嘘カレが学校の図書館で借りて持って来た本の中に、『いちご同盟』の文庫本が有りました。

男子の心情を綴る一文は国語の教材に使われていて、中学校の図書館に置かれていても不思議ではない『いちご同盟』の貸し出しカードの名前欄には主人公の名が有りました。

一人でヒロインの病室へ来て、御見舞いの言葉に躊躇い、黙り続ける主人公をヒロインは、『いちご同盟』の言葉を使って迫ります。

ヒロインのベッドの傍らの車椅子に置かれた『いちご同盟』の文庫本。

「あなたって、ほんとうに変な人」

主人公の察しを知りつつも、

「病院に御見舞いに来たのに、ずうっと黙り込んでいるんですもの」

陰鬱な態度を責める言葉の後、

「あたしと心中しない?」

ヒロインは思い詰めた深刻な表情で真剣に誘います。

不治の病と幾許も無い余命を自覚するヒロインの思い詰めた言葉で、見舞いへ行くのを躊躇って間隔を空けた主人公に、

「もう来ないかと思ったわ」

ヒロインは『いちご同盟』のセリフで皮肉って、ダークに気持ちを探ります。

悪化する不治の病で死を覚悟した大好きな女子から、人生の終焉を一緒に願われるような予期しない突然の言葉と、そのイジけた投げ遣りさに、ピアニストの主人公も『いちご同盟』の内容から、

「君は王女様じゃないよ」

「僕はラヴェルなんて絶対弾かない」

『生きて!』、『諦めないで!』、『アゲイン!』の意味を込めて真摯に言い返します。

そして、自由にならない身体と儚い命の絶望に打ちひしがれていたヴァリオリニストのヒロインは、

「未練が生まれたのは、君のせいだ」

『生きて、再び彼と協奏を』と、心を奮い立たせます。

 

『四月は君の嘘』にリスペクトされた『いちご同盟』では、好きになる気持ちを隠して黙り込む良一に直美が涙目で笑いながら、

「あなたって、ほんとに変な人」

涙が零れて、

「だって、病院にお見舞いにきたのに、ずうっと黙り込んでいるんですもの」

意地悪い目付きの泣き笑い顔で会話を紡いで行き、そして、

「あなたに会いたかったの」

切実な想いを吐露すると、自殺を考える良一に身を寄せて、深刻な現実にケリをつける言葉を真剣に囁きます。

「あたしと、心中しない?」

文章はここで区切られて、直美の覚悟の言葉への良一の反応と直美の続く言葉が綴られていませんが、次章から良一の気持ちが逃げているのが伝わります。

良一が見舞いに来るのを待っていた直美は、挑むような眼差しで、

「もう来ないかと思ったわ」

病室へ来た『心中』と望む自殺の不吉さと理想の無さで迷う良一に、鋭く言い放っています。

知っているのに知らないフリをして相手を量る姑息さが、気丈夫に見せる直美に有りました。

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『四月は君の嘘』と『いちご同盟』の二人のヒロインは、幾許も無い余命を生き抜く覚悟と、絶望に自ら命を絶つ覚悟の両方が有りますが、どちらも一人では怖いのです。

そのヒロイン達の目に映る好きな主人公達には、ヒロインと一緒に飛ぶ覚悟が有ったのだろうか?

自殺願望を持っていたのに即答できず、その後日に告白して直美の想いを知っても、形振り構わずに直美に『生きろ』と励まさない良一は、片方の肺を切除して、やっと生きている辛い状態の直美に

「どこへも行かないでくれ」

こんなタイミングを失した事を言う残念なヘタレで、

「あなたのそばにいるわ」

直美は、今生の別れの言葉を返してしまう。

(直美には、「あたしと心中……」ではなくて、「一緒に来てくれる?」って訊いて欲しかったな。そして、黙り込む良一に「嘘よ」と、笑わない顔で続けて、「あなたのそばにいるわ」と、気丈夫に言って貰いたかったです)

 

飛んで自ら命を絶った小学五年生の『ばかやろう』に感化された良一の自殺願望は、自殺への短絡的で中途半端な憧れでしか有りませんでした。

 

なぜ、幼稚園から直美と幼馴染で兄妹のように親しい徹也は、良一を病室へ連れて行って直美に会わせたのだろう?

野球部で活躍する徹也の姿を見たかっただけの直美は、突然の良一の来訪をどう考えたのだろう?

片足を失って入院する直美は、徹也に良一を連れて来て欲しくなかっただろうと思う。

直美は病室のベッドで寝ている姿も、片足を失った姿も、理由も、良一に見られたくも、知られたくもなかっただろう。

『もう来ないで』、『こんな、あたしでも』、そんな痛々しい気丈夫さで脚部を隠していた毛布を除けた直美は、どんなに辛い気持ちになっていた事でしょう。

掛け替えの無い直美の生死を左右する手術が済むのを待つ間に、カツ丼を病院の食堂で食べる食欲を、『仕方が無い』と言い訳しながら漠然と反省しつつも、その直後に待合室で良一と相撲を取るのはどうだろう?

徹也と良一の、不安、切迫、想い、遣り切れなさ、もどかしさ、を現す行動に、いくら十四歳か、十五歳でも、相撲はないだろう。

状況と場所を弁えない相撲は、独善的で逞しい十五歳の徹也の短絡さと幼さをイメージさせて、切ない嘆かわしさと悲しみを感じさせたかったのだろうか?

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高校生の頃、少年マガジンに『愛と誠』の漫画が連載されていて、そのヒロインへの想いを綴ったサブキャラの手紙に「君の為なら死ねる」の誓い文字が有り、私は片想いの女子の為に、そんな事をできるシリアスに遭遇するチャンスが有れば良いと考えていました。

 

『四月は君の嘘』と『いちご同盟』のヒロインの気持ちは、少しだけ解ります。

十六歳、高校二年生の初夏に私は、中枢神経麻痺による左下肢の進行性内翻足と不随運動を発病しました。

不随運動を伴いながら徐々に悪化して行く内翻足は、脳が覚醒している間は、筋肉に力が入りっぱなしで痛み、下がる爪先に握り続ける足指と接地しない足裏が歩行を困難にしました。

原因は分からず、治療薬も無くて、左足全体の神経ブロックを相談した静岡市の済生会病院で二度の筋肉移行手術を受けて、筋肉の力量バランスで戻して進行を止める事は出来ましたが、自分の意思で動かせない爪先と不随運動は今も同じです。

幸いにヒロイン達のような、片足を失ったり、両足を全く動かせなくなったりしていませんし、死に至る事も無い症状ですが、筋肉移行手術を知る前までは、これは罰で贖罪だと、随分悩みました。

 

入院しているヒロイン達の気持ちは、十四歳の中学二年の晩春に急性骨髄性白血病を患った息子なら感じていたと思います。

息子の不安で辛い一年近くの入院は、最善の治療と懸命な努力に多くの願いや祈り、そして100%適合した娘の骨髄の移植によって、生還に至る事ができました。

あれから、十五年を経た現在は放射線技師として元気に働いています。

 

直美の病気については、多聞に年間150人ほどが発病して、十代の思春期の少年少女が患い易い、骨の癌と呼ばれる『骨肉腫』ではないかと考えます。

『いちご同盟』が執筆された1990年代は、現在の様な四肢の部位を欠損させる事なく、患部の骨髄だけを処置する術式や転移後の放射線や化学治療は、開発途上で問題が多く、試される段階ではありませんでした。

片足を大腿部から切断したのは、膝関節に近い大腿骨部に腫瘍が有ったからでしょう。

また腫瘍が転移した片方の肺を全て切除したのは、片足の切断術後の一年を経たずに肺へ転移して、それが片肺の広い範囲だったと考えます。

悪性腫瘍で片足を切断してから肺にも腫瘍が有ると知らされるまで、直美は自分の未来を悲観していなくて人生に希望を抱いていた事でしょう。

病名や病状や余命を直美に告知しているのか分かりませんが、告知されていなくても腫瘍を除くのに片肺を失うしかないと自覚した時に、片肺を失くした後も腫瘍の転移は続いて、この病室のベッドで退院する事も無く、短い人生を終えるのだと悟ってしまったのでしょう。

死にたくなければ、生きたいのなら、失くしても人生に希望は有るからと諭され、元気になって欲しい、生きて欲しいと願われ、太腿から片足を切断する決意をした十四歳の直美の心は、苦しくて、悲しくて、悔しくて、その暗くて深い嘆きに叫び哭いた事でしょう。

そして、片肺も切除しなければならないと告げられた時、五感の全ての感覚が感じられないくらい絶望したでしょう。

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☆☆☆☆☆

咽喉に絡む痰に咳き込む窒息寸前の苦しみが薄れて、眠り、目覚めた時には、痛みでヒリつく首から出るパイプがベッド脇へ運ばれた人工心肺の機器に繋がれているのを見て、息が通っていない鼻腔と、声が出せない口を知ってしまう。

自分が生かされる為には、こうせざるしかないと動かせない身体を理解する十五歳になった少女は、既に残された肺にも転移が進んでいるのを悟っていたでしょう。

それは、晩期合併症の肺炎が治癒されなくて、機能を失って行く肺胞に自分の命が連れ去られるのだと。

※※※※※

麗らかな陽射しと優しい風が気持ち好い部屋で、ピアノを弾く良一の横で歌っていた。
伸ばした手を繋いだ徹也は、立って片手弾きしながら私をリードしてクルクルと回らせ、ステップを踏みながら躍り、私は窓の向こうの真っ青な蒼空と真っ白な雲を仰いでいる。

……心地良い夢を見ていた。

そんな素敵な夢を見た目覚めなのに、直ぐに私は現実に戻されてしまう。

薄暗い視界に白く濁った病室の天井が簡易クリーンルームの水滴の附着する透明膜を通して見え、それから、周囲に並んで自分を見詰める人達に気付く。

みんな見知っているはずなのに、蛍光灯の照明の光が透明膜で拡散されているのか、暈やけて顔が良く見えない。

その人達が一斉に揺れ動くけれど、声も、音も聞こえない。

徐々に夕刻のようだった明るさが、黄昏になって、それから、夜の月明かりになるみたいに暗さが増して行く。

両親と徹也と良一を眼が探すけれど、それらしい姿は星明りほどになってしまった明るさに判別ができない。

通らない息が声にさせてくれないのも忘れて名前を呼ぶけれど、口が動いているのを感じないまま、視界が真っ暗になって、起きているのか、寝ているのか、生きているのか、境目が無くなった感覚に、それすらも分からなくなった。

眠りに誘われるような感じに、『夢の続きが見れるといいな』と願いながら、意識が薄く広がって希薄で朧になって、今度こそは、二度と眼が覚めないのだと悟ってしまう。

※※※※※

直美の最期は、事情を選ばない突然の衝撃を伴う破壊音と激痛が、真っ暗で無感覚な闇になるサドンデスな死と違い、ベッドの上で安らかに眠りに就くような永眠であって欲しいと願います。

☆☆☆☆☆

深く重いテーマの悲しい結末でしたが、作者は健常者なのかな?

野球試合は臨場感が有って楽しく読めるのですが、ストーリー的にウエイトが大きくて、もっと直美の心境や良一と直美の時間を深く長くして貰いたかったですし、それに面白く楽しめたであろう長い人生の結を、平らな無感動で短縮してしまった小学五年生についての語り合いから、儚くても強く希望を導いて欲しかったですね。

また、楽曲のリズムを聞き覚えている読者にしか理解できないような、『タン、タタタ、ターン』などの擬音語を多く連ねてページ稼ぎをするような陳腐さが無く、言葉での表現は文章に重みを持たせ、曲の意味やリズムをイメージし易くて立体的に感じました。

 

PS:

違和感が有る徹也の歳に相応しく無い言い訳と、直美や直美の父の一方的に語る長いセリフに、中学生の時に見た大学紛争の報道と、共闘の言い訳的で一方通行なアジ演説の臭いがしました。

恐らく、直美の父が語る一割も理解できないであろう内容を十五歳の良一に話す事と、『私はこんなに可愛そうなの』と直美が良一に話す事は、作中へ上手く鏤めたなら、もっと、纏まったラストになったと思います。