2019年8月23日 金曜日、新たに赴任した山西省晋城市の工廠で、『今晩は、花火を観るディナーショーで顧問の歓迎会をします。ぜひ、参加ですよ!』と誘われて、出席した晩餐会の後のショーは、想像して(中国の、こんな内陸の地方都市でド派手な打ち上げ花火なんて、有るのかいな?)と思っていた花火は、想像以上の激しさで、慄いてしまった!
ショーの会場は、城壁のような高い壁に囲まれた水辺も有る陸上競技場ほどの広さのステージを観る階段状の観客席には、3000人くらいのオーディエンスが座っていてビックリです。
90分のショーの前半は集団演技と合唱です。
後半は、集団演技の後方で火を持つ人達が動いているので、いよいよ花火を上げるのかと期待していたら、なんと、爆発するような大きな光が瞬き、奥のコンクリートの広場に花火の火薬ではない、無数の大きな火花が上がるのでした。
(これは……、なに!?)
初めは何の火花か分かり難かったのですが、よく見ていると、柄杓に溶けた鉄を入れて力任せに大きく高く広げてブチ撒けているのでした。
鉄の融点は1538℃、溶けて沸騰する状態を維持する1600℃まで過熱した比重7.85の重い鉄をブチ撒けるのは、豪快で華々しくて凄く綺麗です。
柄杓に1ℓが入っているとすると、重さは約8kgで、これを何度も汲んで派手にブチ撒ける。
沸騰する鉄は、線香花火のように火花を迸りながら床に落ちて弾け、1600℃に触れたコンクリートも膨張爆発して更に鉄を飛ばします。
火花の演出を行う職人達は、伝統服のようにデザインしなおした最新の耐火服を着込んでいますが、耐えられるは500℃までです。
もしも、足許や手許がブレて、溶融した重い鉄を腕や足に浴びようものなら、骨まで蒸発させる極度の深層火傷となって、その部位から先を切断するしかなくなり、例え、肉を抉るだけで済んだとしても、治癒には何年も掛かり、部位の機能は完全に戻らない。
そんな物凄く危険な鉄の火花ショーですが、鮮明に美しく、ド迫力でした。
この千年鉄魂のショーの元祖は、山西省の東南隣に在る湖南省で600年前の明代に始まった打樹花という、春節(旧正月)の御祭りでのパフォーマンスです。
600年前の春節で貴族達は花火で新年を祝っていましたが、当時は花火が高価で、庶民達は旧年の憂いを晴らす華やかな祝いを行えませんでした。
そこで、花火代わりになる憂さ晴らしを、鉄鋼職人達が鉄の火花で代用できないかと着想したのが、溶けた鉄を煉瓦塀にブチ撒いて迸る打樹花です。
山西省と湖南省の省境には岩山が連なる太行山脈が在って鉱山が多いですから、当時から工程が面倒で危険な火薬よりも、踏鞴を踏んで鉄鉱石を溶かすだけの鉄の方が、量が多くて安かったのでしょう。
打樹花は春節に行われる新年の祝いですが、千年鉄魂は広大な飲食店の敷地内の舞台で、毎日催されています。
千年鉄魂が催されるのは、司徒小鎮という広い鋼材会社の跡地を利用した、舞台の他に大きな建物の中と外に古都の路地を模して飲食店と土産物屋が並ぶ高級中華レストランで、航空写真地図を見ると、以外と赴任地の工廠から近いです。
PS:
工業高校の機械科の実習で、屑鉄を溶かしたキューポラから出した鉄の湯で柄杓を満たして、自作した砂型へ慎重に運んで注ぎ、何を作ったのか忘れましたが、鋳造していたのを思い出しました。
柄杓は重く、溶かしても鉄は鉄、熱くて重かったです。